2017-08

「貴婦人の訪問」8/19マチネ

日本初演の「貴婦人の訪問」、シアタークリエまで行ってきました。
アルフレッドとクレアの愛憎劇かと思いきや、富や権力に対する本音と建前、社会的弱者に対する不寛容など、人間の愚かさが描かれており、社会(ギュレン)の中で政治(マディアス)・教育(クラウス)・司法(ゲルハルト)・宗教(ヨハネス)・経済(クレア)の健全なバランスが崩れた時人間はどうなるのかという風刺画的側面を持った深い作品でした。うまく書けないけれど、感想メモ行ってみます。

【主な出演】
アルフレッド(山口祐一郎)/クレア(涼風真世)/マチルデ(春野寿美礼)/マティアス(今井清隆)/クラウス(石川禅)/ゲルハルト(今拓哉)/ヨハネス(中山昇)/若い日のアルフレッド(寺元健一郎)/若い日のクレア(飯野めぐみ)/レーナ(日浦美菜子)

山口祐一郎
”伯爵”とか”猊下”とかきらびやかでオレ様な役が多い山口さんですが、今回はしがない雑貨屋の店主の役でした。もさもさ頭に眼鏡、猫背気味の大きな体が本当にヨレヨレ(笑)。家族と友人に恵まれ平々凡々と暮らすアルフレッドですが、恋人のクレアにひどい仕打ちをした過去があります。若気の至りでは済まされない非道そのものの行為が明らかになるにつれ、よくもまあへらへら笑って生きてこれたなあと。そんな彼もクレアと再会し、自分がクレアに負わせた傷の深さを知ることで、変わっていきます。最初は死の恐怖から逃げ回るばかりだったアルフレッドでしたが、最期はキリっとしていてまるで別人。「祈るがいい、ギュレンのために」、友人達に対する恨みや死に対する恐怖はなく、哀れな町の行く末を案じた一言は潔くてカッコよかった。
「わああ~」っと叫びながら両腕を上にあげて走り回る姿が大袈裟で非現実的で、最初はおいおいと思いましたが、山口さんの不思議な浮遊感が物語の重さから救ってくれたのかなとも思います。セリフ、歌とも、地声に近い軽くて柔らかい声だったのも印象的。あ、でも、ソロの時の両手の位置と内股・中腰の立ち方はいつもの山口さんでした。

涼風真世
ものすごい気迫で、クレアが登場するたびに、場内はビリビリとした緊張感に包まれます。わずか17歳で、最愛のアルフレッドを筆頭に町中の人々に貶められた経緯が明らかになるにつれ、尊大な企業家の顔の陰に隠された彼女の怒りが見えてきます。とはいえクレアは今もアルフレッドとの思い出を慈しんでいるし、本当に彼の死を望んだわけではないのではと感じました。アルフレッドを駒に、もう一度ギュレンの人々の良心を試したかったのかなと。ラストの「みんな人殺しよ!」というセリフですが、町の復興と一人の人間の生き死にを秤にかけたギュレンの人々、しいては人間そのものの欺瞞に対する怒りの爆発のように聞こえました。体を傾けた杖歩行は迫真でしたが、本当に大変そうでした。

春野寿美礼
善良な良妻賢母といった風情のマチルデですが、実は一番怖い人。町の人々と同じメタリックな衣装に身を包み、息子・娘と共に、夫を断罪する姿にはゾっとしました。クレアとの一連のことを知りながらアルフレッドと結婚したマチルデ。だから、何が起ころうと、二人で築き上げてきた生活を手放すことはないだろうと思っていたので、彼女がアルフレッドを見捨てたのは本当に意外でした。人の心は計り知れない、怖い怖い。

今井清隆&石川禅&今拓哉&中山昇
まずは、これだけの豪華メンバーの歌を聴くことができて、耳福でした。電話をしながらの四重唱はカッコよかった~。彼らが次々にアルフレッドを裏切っていく姿も、見応えありました。アルフレッドをバッサリ切り捨てた矢先に彼の店でオムツを買うマティアスキーヨはいかにも現実的な政治家だし、ヨハネス禅さんが最後の最後まで苦悩するのは人を育てる教育者だからだろうし。最後にゲルハルトが銃を手渡すのは、友を思ってのことなのか、自分の保身のためなのか、人の心のほの暗さを感じました。

寺元君&飯野さん
若い日のアルフレッドとクレアを演じた二人の歌声がステキでした。
毎度同じことを書いていますが、寺元君の声は本当にきれい!少しほっそりされたかな?そして青いシャツがお似合い、こんな爽やかな青年が恋人にひどいことをするようなんて。だから人間て怖い。

日浦美菜子
「モーツァルト!」でアマデを演じた日浦さんでしたが、ベテランに混ざって堂々とした歌唱がすばらしかった。黄色いブラウス+赤い吊りひもスカートの組合せがちびまるこちゃんに見えたのは私だけ?

照明もシンプルながら練られていました。キャストに対しては正方形のスポットが基本。おっさん達の四重唱では、各人に当たる真四角のスポットが、キャラクターをより明確にしています。アルフレッドが町民に囲まれる場面では、何筋ものライトが身もだえする山口さんの体を縛るように当たり、きれいでカッコよかったです。そして、音楽も耳になじみのいいメロディーが多くて聴きやすかったです。

全員でのカーテンコールの後、山口&涼風が仲良く腕を組んで登場。涼風さんはお辞儀の後、すばやく片膝ついて山口さんに向かって両手をひらひら。それに応えて何かするかと思いきや、山口さんは普通にお辞儀のみ。2回目には、石川&春野のペアも登場。2組のカップルは、ニコニコ笑顔で下手に捌けていきました。裏切り満載の本編だっただけに、カテコだけでも和気藹々、仲良しさんでよかったです。

暗くて重い物語でしたが、役者さん達の達者な演技と歌にぐいぐい惹き込まれました。若手中心の溌剌とした舞台も楽しいけれど、このようにベテラン勢の技量と経験を堪能できる演目がもっと紹介されるようになったらいいのにと思いました。

その他、どうでもいいいろいろ。
・町の合唱団
クレアに圧倒され、緊張のあまり、ドへたくそなコーラスを披露する市民たち。ここまで音をはずして歌うのも難しいかと。彼らの歌を聞いて、ヨハネスに斜めに倒れかかってしまうアルフレッドの小芝居に笑った。

・黒豹の逃亡
黒豹の逃亡に絡めて、アルフレッドが精神的に追いつめられていく様子が描かれます。マティアスを訪問し恐怖を訴えるも本気にされないどころか、(黒豹から自衛するための)銃を目の前に見せられることで身体的危機感が増し、新市庁舎の設計図を見せられ精神的危機感が増し、混乱するアルフレッド。クラウス、ゲルハルト、ヨハネスのところでも同じような目にあい、最後にはヨハネスの銃を奪い、半狂乱で逃げ出してしまう。この場面、コミカルかつブラックで好きです。最後に黒豹は射殺されますが、それはアルフレッドの行く末を暗示しているわけで、こちらも深い。

・謎のギュレンファッション
クレアが町を救ってくれるかもしれないという期待感だけで、急に贅沢を始める町の人々。象徴的なのは、彼らが着始める銀のメタリックな素材の衣装。視覚的にわかりやすいのだけれど、幾何学的でSFチックなデザインは、少なくとも今風ではなく、大いに謎でした。

・おっさん達が繰り出す笑いの数々。
アルフレッド(山口):大きな体の内股歩行に最初はびっくりでしたが、後からじわじわ効いてきました。ゲルハルトのところで、座っている木の椅子をガタガタ揺らすわ、派手なスカーフで頬かぶりをして町を出ようとするわ、やることなすこと小学生並み。山田さんの演出でなければ、こんな姿は見られないかな?
マティアス(今井さん):キーヨもいろいろやってました。クレアの歓迎式では、どもりながらキョドってたし。アルフレッドの店に行き住民集会の話を告げるというシリアスな場面で、突如として子供用のオムツをクレジット買い。この場面、マティアスのあまりなKYぶりに呆れつつも、間の良さについ笑ってしまいました。「キーヨ=優しいパパ」のイメージを利用したブラック演出。
クラウス:クレアに圧倒されてキョドる姿がアブロンシウス教授入ってました。
ゲルハルト(今さん):ジャベールを彷彿とさせるお堅い警察官ですが、新調した制服が嬉しくて仕方がないという様子がかわいかった。
ヨハネス(中山さん):牧師なのに妙に軽快なダンス(笑)。

・黒豹
山口さんと寺元君、二人とも黒豹には見えない件。


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